2020/10/10 ばかがばれてから

長野駅前にいる。

ビールを飲みながらこれを書いている。

信州野沢のブルワリー「AJB Co.(アングロジャパンブルワリー)」の「NOZAWA IPA」だ。英国出身のトーマス・リブシー氏が手がけるクラフトビールだ。AJBさんのビールがとても好きで、見かけたら必ず買うようにしている。もちろん、取り寄せたことも多々ある。

(ちなみに野沢にあるブリューパブの名前は「里武士」。リブシーの当て字だ。素晴らしい)

「ものすごく気になっていたのだが、案外忘れてしまっていた」ということはないだろうか。私には多々ある。

それ、重要ではないってことだろ!と自分の中からツッコミが返ってきたが、果たしてそうだろうか。

思い出すことが大事なのだ。パッと思い出すことほど重要。

私がいかにこのブルワリーが好きなのかを書きたいが、書きためたメモがすでに18000字になっているので、別の機会にまとめようと思う。

さて、このビール、なかなかパンチがある。強い。
もしかすると、普通のビールが好きな方には難しいかもしれない。

いわゆる「IPA」というスタイルのビールだ(厳密に言うとビールというか「エール」なのだが、ここでは省略する)。

「インディア・ペール・エール」といって、
ここ数年、人気が高いビールのスタイルだ。

大英帝国華やかなりし頃、英本国から当時の植民地・インドへと大量にビールが送り届けられていた。インドに対する輸出品としてというよりも、現地にいるイギリス人が消費するもの、という意味合いが強かったと思われる。今も昔も、とんでもない消費量だ。

その際に、問題があった。数ヶ月にも及ぶ航海であること、赤道を通過することによって、途中で味が変わってしまったのだ。

英国からインドへとペールエールを輸送する際、長い航海の途中で腐らせてしまわぬよう、防腐剤代わりにホップを多めに入れたことがきっかけで誕生した。ホップ&アルコールの割合が高いゆえに、よりガツンとくる。

それこそ同じ信州、軽井沢の名ブルワリー、ヤッホーブルーイングから発売されている「インドの青鬼」が人気の火付け役となった。

このビールの何が好きかと言うと、味もさることながら、じっくり楽しめるところだ。

ツウはペールエールを飲む際、冷蔵庫から出した後にわざと少し置いてから飲む。

そうすることで、より香りを楽しむことができるのだ。というよりむしろ、本来の香りを楽しめるといったほうがいいかもしれない。

キンキンに冷えたビールがウマいという既成概念をぶっ壊してくれた、素晴らしいビア・スタイルだと思う。

すこしヌルくなってから、チーズと一緒に飲むともう最高。長野はチーズも美味しいので幸せだ。

長野が好きである。めっちゃ好き。

凛とした上品な女性、みたいなイメージを持っている。

私は、蕎麦が好きだ。長野出身の方にもたいへんよくしていただいている。長野に足を向けて寝られない人間である。

神様が「一つだけ残して食べ物を消すから、残したい食べ物を選んで。」と言われたら、迷わず蕎麦を残してください!と答える。

思えば毎年、新そばが出ると長野の蕎麦をほぼ必ず食べている。現地に足を運ぶことが多いが、ときには通販で買ったり、送ってもらったり。

蕎麦をきっかけとして、長野の美味しい野菜を知ったり。毎回、来るたびに楽しくて仕方がない。

今日は、「好き」が増殖するような1日だった。

昼前に新潟を発ち、正午ごろに上越に立ち寄った。

長野に行くと決めた刹那、私はこう思った。「上越に寄れるではないか!」と。

行くべきところはひとつしかない。
私はカフェ「イロハニ堂」に立ち寄った。

かつては新潟市内野で営業をしていたカフェだ。

毎日のように通っていたわけではないが、「カフェ行きたいな」と思ったら真っ先に頭に浮かぶお店だった。

2017年からは上越市に場所を移し、営業をしている。

素晴らしいところを挙げるとキリがない。ひとつだけ選ぶとすれば、店主のサカノさんが素晴らしいのだ。

お人柄というか、まとっている雰囲気が素晴らしい。

ぜひ一度、訪れてみてください。きっと私が言わんとしていることがわかっていただけるはずです。

内野で営業をしていたときから変わらないことなのだが、店内にはたくさんの本が置かれている。

いちばん最初に目に入った本を手に取り、コーヒーを飲みながら読ませていただく、という行動を続けてきた。

あまり長々居座るのは性に合わないので、サッと読む感じ。

今回も、ふと手に取った本が非常によかった。糸井重里著「忘れてきた花束。」という本だ。
その中に『ばかがばれてから』というエッセイが収録されていた。

これが素晴らしかった。凝視するように読み入ってしまった。

糸井さんが「ほぼ日」で2014年12月25日に綴っていたエッセイ(のようなもの)だ。

簡単にいうと、「ばかがバレてからが『ほんとうのおれ』だ」ということをおっしゃっている。

ばかな自分は、自分のばかを隠そうとする。賢いフリをする。しかし、必ずそれはバレるのだ。

「実物大のぼくが、どういうものであるか、すっかりばれてからが勝負であるといっていい」とも言っている。

今の自分にこれほどタイムリーな文章はないだろうと思って貪り読んでしまった。

新潟に帰ったらこの本、買おう。っていうか、いまポチろう。

そして、もうひとつ、すごいことが起きた。

これまた新潟市西区内野で伝説的な書店を営まれていたNさんと、ばったり会ったのだ。

ちょうど昨年の今頃、関西へ向かう飛行機に乗る際に、新潟空港でばったりお会いした。

それだけに、びっくりした。すごいタイミングだなと。

今回はご家族と一緒だった。奥様と息子さん。

息子さんとは4年前くらいに会ったことがある(そして、その際なぜか相撲を取った笑)のだが、すっかり大きくなっていてびっくりした。

奥様とけっこうお話をさせていただいた。とても感じの良い方で、話が弾んだ。

思えば、イロハニ堂では、そういったことがよく起こる。

話が弾んで、今も交友が続く友人になった人が幾人もいる。

これは素晴らしいことだし、ありがたいことだ。

「場所」というものについて考えさせられる昨今だけに、より一層、そういった場所を守ってくださっている方たちに対して、ありがたみを感じる。

「まだ昼なのに、もう今日1日は、すでに素晴らしい日になっちゃったな」

そう言いながら店を跡にした。

もっとも「良かったなあ」と思ったのが、イロハニ堂で過ごしたひと時だった。
ショートケーキで例えるならイチゴだけ最後に食べるタイプなので、好きなものは最後に残しておいた。