ユニフォームを着る

打ち合わせの席で、次のようなことを言われました。

「竹谷さんは、いつもジャケットを着ていますよね」。

すばらしい着目点です。

まさしくその通り。

ジャケットは私にとってユニフォームであり、スーツでもあると思っています。

「おいおい、スーツってのは、上下同じ素材で仕立てられた仕事着だぜ」とおっしゃる方もいるでしょう。むしろ、ぞれが正解です。

しかし、いっぽうで、ラテン語由来説をとれば、「suit」というのは「従うもの=適している」という意味を持つのだとか。

とすれば、必ずしも背広を指す言葉ではなく、「自分に適した服」と捉えることもできます。

そして、「戦闘服」としての意味合いも持っていると思います。

「では、適している服ってのは、自分にとって何なのだろう」と思案し、模索の結果、たどり着いたのがジャケットでした。

「ユニフォームをつくる」と言う考え方

男子たるもの、ユニフォームを1つや2つ、持っておくべきなのではないかと思うのです。

ビシッときまる背広があれば素晴らしいこと。しかし、昨今の環境の変化によって、綿やウールでできた背広の着用は日本に住む我々には過酷な服装となってきました。かといって、リネンのスーツはハードルが高いと思います。いっぽうで、亜熱帯と化した日本の環境に合わせて背広を着崩すなど、もってのほかとも思います。

しかし、「相手に敬意を表しながら仕事をする」ということは捨てたくない。

となれば、自ずとジャケットの着用が選択肢となる、というこってす。

はてさて、「仕事に適した戦闘服」となりますと、「機能性」「コストパフォーマンス」などの概念と結びつきがちですが、私の考えは若干異なります。

「好きなものを着ること」。これにつきます。

「では、お前さんはいったい何が好きなんだい?」と聞かれますと、Nigel Cabourn(ナイジェル・ケーボン)というブランドを推します。

20代半ばから愛好しているので、かれこれ15年ほどの付き合いです。

好きなものこそ、自分の戦闘服、ユニフォームにすべきと考えます。

昨年、佐渡に住む友人にお願いして、プロフィール写真を撮り直してもらいました。

この写真で私が着用しているのは、いわゆるマロリー・ジャケットです。英国エベレスト遠征隊のジョージ・マロリーが着用していたとされる服をイメージしてつくられた、ナイジェル・ケーボンの代表作のひとつ。ナイジェルケーボン好きには、言わずと知れた伝説的アイテムでもあります。

見ての通り、通常のマロリージャケットとは趣が異なります。メイン素材にはコットンデニムを使用しており、本家とは真逆の通気性の良さを誇ります。でもって、見た目とは裏腹に着心地が良いのも嬉しい。デニム系素材なので、着ていくうちに自分の身体に馴染んでいくのも素敵です。

さらに、このジャケットが良いのは、肩、袖、エルボーパッチといった、人体における可動域部分を補強していること。CWC(Cold Whether Cloth)という、ベンタイルをイメージしてナイジェルが開発した独自素材。経糸に綿糸、横糸に麻糸を打ち込んだ交織生地で、それぞれ超細番手に打ち込んでいるので相当な手間のかかった高級素材です。限界まで細い糸を打ち込むことで、水滴が入り込む隙を与えないという仕組み。これにより、極めて高い防水効果を発揮します。昨今は、GORE-TEXをはじめとするハイテク素材がおおいに活用されていますが、こちらは極めてアナログ。ハイテク防水の極致をGORE-TEXとするならば、アナログ防水の極致はベンタイルではないかと思います。

私は日々、いろんなところに出掛けては取材や撮影を行う日々を送っています。重いリュックを背負い、肘をついて固定したり、芋虫のごとく匍匐前進して写真を撮ることもしばしば。

そうなりますと、何が起きるか?衣類の消耗がとにかく激しくなるのです。とくに、上着の肩、肘部分と、ズボンの膝部分の消耗がひどい。ヘタをすると、半年で使い物にならなくなることもありました。

その弱点を補うのに、ベンタイル系の素材は最も最適な選択肢の一つではないかと思っています。

この写真で私が着用しているベストがベンタイル製。佐渡の撮影行では、バトルフィールドテストを兼ねてずっと着ていました。豪雨に襲われましたが、このベストの当たっている範囲だけまったく水が染み込まなかったことが、その性能を物語っています。

こうした「スーツ」を纏っていると、なんだか自分の能力を3割増くらいにしてくれるんじゃないか?といつも勘違いしてしまいます。この勘違いパワーこそが大事なんです。

継ぎはぎは「味」か?

さて、ジャケットに話を戻します。

いかに素晴らしい素材でパッチしていようが、ぱっと見では、継ぎはぎだらけで貧乏ったらしく見えるかもしれません。

しかし、ここにこそ英国ファッションの醍醐味が隠れているんじゃないかと思います。

英国というのは、築年数が古い住宅ほど不動産価値が上がる(一部除く)という事実を切り取ってみても、古きものに価値を見出す文化を持つ国だということがよくわかります。

ボロボロになってきたら、ベンタイルの生地をなんとかして手に入れ、パッチを当てたいなどと妄想しています。それすらも楽しみにしてしまえば、ファッションを一生嫌いにならない気がしてきます。

その前にウエストが肥大化してしまったら終わりなので、日々の生活をsuitableなものにしていかないとな、なんて思います。

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