デザインと情報設計の本質をほんのり探る──活版印刷とWordPressに見る余白の哲学

わたしはWEBコンテンツ制作において、長年WordPressを愛用してきました。

個人の投稿から企業のプレスリリース、「中の人」的投稿まで。思い返してみると、ありとあらゆる投稿を、このWordPressで行ってきたのです。

リリース後しばらくは、今となっては古めかしいエディタでいそいそと制作と投稿に励んでいましたが、2018年からは、新エディタ「Gutenberg(グーテンベルク)」が登場したわけです。

「グーテンベルクってあのグーテンベルクだよな」と思いを馳せつつも、深掘りして考えるようなきっかけもありませんでした。

そんなこんなで、7年近くも何も考えずGutenbergを使ってきたのですが、つい先日、あるところで「活版印刷における組版」に関する取材を行いました。そこで私は「ああ、だからGutenbergなのね」と妙に納得したのでした。

また、「投稿」というのは、「世に問うこと=出版的営為である」ということにあらためて気がついたのです。

どういうことか。以下に書きます。

1. 活版印刷とWordPressの意外な共通点

「活版印刷」と「WordPress」。一見すると、アナログとデジタル、まったく異なるもののように思えます。しかし、実はこの二つは共通の哲学を持っています。それは、「情報を効果的に伝えるために、どのように配置するか」という視点です。

WordPressのブロックエディタ「Gutenberg(グーテンベルク)」は、まさに活版印刷の発明者であるヨハネス・グーテンベルクから名を取っています。そして、WordPressでは記事を投稿するときに押すボタンの名称が「Publish(投稿)」であることは、バージョンが変わっても一貫しています。このような開発者のこだわりは、活版印刷の「組版」の思想と通じるものがあります。

2. 活版印刷における「余白」の哲学

Unsplash,Marco Djallo

活版印刷では、単に文字を並べるだけではなく、「余白」もまた重要な要素として扱われます。例えば、文字と文字の間、行と行の間、ページの余白などが適切に設計されることで、文章が読みやすくなります。

この余白を生み出すために、「クワタ(羅:Quads)」と呼ばれる物理的なスペーサーが使用されます。これは活字と活字の間に挟み込まれる部品で、目に見えない部分を作るために存在します。つまり、余白とは単なる「何もない空間」ではなく、「見えないけれど確かにあるもの」なのです

目に見えないものを、本来は目に見える物質で作り出す、ということ。

わざわざ余白用の板を置いてつくりだすのです。

これは面白いと思いました。

活版印刷の余白の存在に興味を持ったきっかけは、山口一郎さんの詩集

サカナクションの山口一郎さんが昨年、「ことば2 僕自身の訓練のためのノート」という本をリリースされたのですが、そのメイキング映像を観て、わたしは「えっ、これはすごくないか!?」と思ったのですワ。

この詩集の特装本の印刷には活版印刷が採用されています。映像では、製本に携わった企画者やクリエイターの方たちの貴重なインタビューが紹介されているのですが、この映像の1:56〜くらいから活版印刷の説明があります。活版印刷における余白の存在、扱い方について知る上でとてもわかりやすいとも思ったので、ぜひご覧ください。

ちなみに私は代官山蔦屋でこちらを購入し、サカナクション好きの友人に贈りました(自分用にも欲しい…)。

3. WordPressにおける「余白」の作り方

では、WordPressのエディタでは、余白をどう作っているのか?というお話を。

WordPressのGutenbergエディタでは、「スペーサーブロック」という機能を使うことで、意図的に余白を作ることができます。これは、まさに活版印刷における「クワタ」に相当する役割を果たしていると言えるでしょう。

デジタルの世界では、HTMLやCSSを駆使することで「見えない余白」をデザインします。しかし、それを意識しなければ、情報が詰め込まれすぎて読みにくくなるのです。WordPressが直感的にスペースを作れるようにしていること、デフォルト設定でも目立つ位置にわざわざこのスペーサーブロックを表示させているのは、余白が情報伝達において極めて重要であることを開発者が理解しているからでしょう。

4. 「余白は、何もないわけではない」──ドーナツの穴の存在証明?

この話は、まるで「ドーナツの穴の存在証明問題」のようです。

ドーナツには「穴」がありますが、それは「何もない部分」ではなく、「ドーナツという形を成り立たせるために必要な空間」です。穴があるからこそ、私たちはそれをドーナツとして認識できます。

同じように、活版印刷の余白も、WordPressのスペーサーブロックも、「何もない」のではなく、「全体の情報設計を成り立たせるために不可欠な要素」と言えます。

5. 余白の哲学と「Publish(投稿)」の意味

WordPressでは、記事を書いて「Publish」ボタンを押すことで、世界に向けて情報が発信されます。しかし、単にテキストを並べるだけでは、読者に届くとは限りません。適切な余白を設計し、情報を整理することで、初めて「伝わる」コンテンツが生まれます。

活版印刷の時代も、余白の配置を慎重に考え、読みやすいレイアウトを生み出すことが求められていました。それと同じように、WordPressでも、どのようにコンテンツを配置し、余白を使うかが重要になってきます。

「Publish」という行為は、単なる情報の公開ではなく、「情報を伝えるためのデザイン」なのだなあと思っています。

6. まとめ──活版印刷とWordPressに共通する「余白の美学」

活版印刷とWordPressは、時代も技術も異なりますが、「余白をデザインする」という点で深くつながっているのではないかと思います。

  • 活版印刷では「クワタ」が余白を作り、文字の可読性を高める。
  • WordPressでは「スペーサーブロック」が余白を調整し、読みやすいコンテンツを作る。
  • 余白とは、「何もない空間」ではなく、「情報を整理し、伝えやすくするための見えないデザイン」。
  • 「ドーナツの穴」と同じように、余白は「無」ではなく、「全体のバランスを取るための要素」。

WordPressの「Publish(投稿)」というボタンを押すとき、それは単に文章をインターネットに載せるだけの行為ではありません。情報を整理し、適切な余白を設計し、伝わりやすい形で世界に届ける──まさに、活版印刷の職人たちがやっていたことと同じなのです。

「見えないが、確かにあるもの」──その余白が、情報の伝わり方を決める。

こうして考えると、WordPressは現代の活版印刷とも言えるのかもしれませんね。

それこそ昨今は、ノーコードツールの発展は目覚ましいものがありますし、私も毎日のように使っています。

そうした中でもWordPressを選ぶことが多く、今後も使うんじゃないかなあと思うのです。

使うツールに迷うときは「なんか、いいな」という直観があるものを使いたい、という思いがあります。

WordPressには、この「なんか、いいな」を感じる機会が多いのです。バージョンにジャズ・ミュージシャンの名前を冠していたり。なんだか洒落ていて素敵ではないですか。

無論、相談を下さる方の利益がいちばん大切。

その上で、こうした、ある意味小難しいことも一切合切を共有した上で「それ、いいじゃん」となりましたら、WordPressをご提案していきたいなと思っております。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次