“Rogue Heroes”

最愛の友人がイギリスに住んでいる。

もう10年も前のことになるが、彼の一家が日本を訪れたことがあった。私がつきっきりでアテンドし、浅草や明治神宮などを案内して回った。

その中に、祖父君の姿があった。

祖父君は1920年代生まれの当時80代(!)にも関わらず背筋はピンとしていて、まさしく英国紳士といった風格を醸し出していた。しかし、独特の眼光の鋭さに目がいった。

聞けば祖父君は戦時中、北アフリカで「諸々の作戦」に従事していたらしく、「たくさんのJerryども(ドイツ兵)を相手にしたもんだ」という。「やつらはなかなかタフだったし、作戦は『ぶっ飛んだ』のが多かった。手強い相手だったよ」と続ける。

たびたびスラングを挟みながらも、彼の話す英語には、どことなく上品さが漂っていた。

そして、英語のスキルが決して高くはない私のような人間でも、はっきりと聞き取れるくらい、クリアな発音をしていたのが印象的だった。

そして、そんな彼がはっきりとした言葉で発した、ある言葉が最も印象に残っているのだった。

「味方は、もっとぶっ飛んでいたよ」ー。

友人の一家は、イングランド北部からスコットランドにまたがる地域に所領を持つ、いわゆるアッパークラスの家系だったが、20世紀に入り没落してしまったという。ご本人いわく「先祖が真面目に貴族をやりすぎた」らしい。要するに、第一次大戦でノブリス・オブリージュを果たし、結果、資金と所領と、そして一家の大黒柱たる男たちを失ったのだった。

一族の男子は代々、パブリック・スクールに「放り込まれる」という。思うに、そうした学校では勉学を学ぶことはもちろん、ラグビーなどのゲームで闘争心や勇気を育てることもまた重要視している。第二次大戦の頃までは、そうした伝統が生きていたのではないか。少ない数の卒業生が軍に志願した。

冒頭の動画を見ると、英陸軍の士官が比較的聞き取りやすい英語を話していることに気が付く。下士官、兵卒らがコックニーや北部の労働者階級の英語を話しているなか、彼はあきらかに異なる英語を話している。おそらく名門校卒なのだろう。

…のだが、どことなく漂う「あぶない奴」感がすごい。単なるエリートのおぼっちゃまではないということが、喋り方から醸し出されているように私には思われた。Fワードも連発している。

Connor Swindellsが演じるのは、この士官役…つまりSASの創設者、デイヴィッド・スターリング(David Stirling)その人である。この人物がものすごく面白い。彼もまたパブリックスクールを卒業し、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに学んだエリートである。中途退学し、エベレスト登山を目指したトレーニング中に第二次大戦が勃発。英陸軍に加わったという。ぶっ飛んでいる。

ぶっ飛んでいるのはその後の彼の足跡こそで、落下傘効果してドイツ軍の飛行場を襲撃したり、砂漠をジープで横断してドイツ軍・イタリア軍の拠点を焼き払ったりしている。こうした神出鬼没の作戦を展開する部隊の指揮官たる彼は、独伊からは「The Phantom Major(幽霊少佐)」と呼ばれていたそうだ。

このドラマでは、そういったSAS誕生期の逸話を辿っている。フィクションにしか見えないシーンばかりなのだが、驚くなかれ「Based on a true story(このドラマは事実に基づいています)」なのだ。

何が言いたいかというと、このドラマの再現度は恐ろしく高いのだろう、ということだ。「あっ、友人の爺様が言っていたのはこれか!?」と思ったのだった。

はやく日本語版が出てくれないものかと思う一方、英語の勉強をする良い機会と捉えて、原文で楽しみたい思いも。

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