Q.千葉県から新潟市に移住してきたKです。先日は読書会で同席をありがとうございました。さて、今年、はじめて新潟の冬を過ごしているのですが、荒天続きでびっくりしています。晴れている日を数えてみたところ、この2ヶ月でなんと2日(正確には1.5日)!もはや耐えられないほど苦しくなってきました。ほんと、もう、無理です…。生粋の新潟人は、どのようにして乗り切っているのでしょうか。また、冬の過酷さに圧倒される私に対する、周囲の目が気になります。「関東の人間は弱ッ!」などと思われているのでしょうか。
A.私はK様がおっしゃるところの「生粋の新潟人」ですが、恥ずかしながらとても冬に弱いので、残念ながらコモンセンス的なお答えは出来かねます。私自身、何も考えないで冬を過ごしていると、「もう無理…」となります。それだと身も蓋もありませんので、別の観点からお答えしようと思います。
私の場合は、物欲をうまく利用しています。冬が到来する前に、素晴らしいコートなりジャンパーなりを購入し、育てるということをしています。「冬にはこれを着ることができるのだ」と、気持ちを昂らせて冬の到来を待つのです。
もっと言うと「手間のかかる冬の嗜み」に「あえて手を出す」ことをお勧めします。
具体的に私の例を申し上げましょう。私が冬場に愛用する「バブアー」というジャンパーがあります。イングランド北部にあるサウスシールズという街で誕生した、100年以上もの歴史をもつジャンパーで、北海に繰り出す漁師など、過酷な現場で働く男たちに向けて制作されました。新品の写真をみると、黒光りしているように見えます。
https://www.japan.barbour.com/features_7
生地には「オイルド・コットン」を使用しています。いわゆるオイル引きジャンパーなのです。油(オイル)を染み込ませた綿を使用することにより、抜群の防水機能を持たせるという寸法で、当時としては画期的な防水衣料でした。コーデュロイの襟がついており、首元が汚れないよう工夫されていたり、ハンドウォーマーがあったりと実に機能的。ポケットの配置も大変よく考えられていて、とても使いやすいのです。
今はこうした表現は歓迎されないのかもしれませんが、この「オトコ臭い」ビジュアルが実に良いのです。オトコ臭いのですが、野暮ったくなりすぎない。上述のコーデュロイの襟といい、どこか上品さとトラッド感を感じさせるのはイギリス製品の良さなのではないかと思っています。私が所有する「Beaufort」は丈の長いモデルですから、スーツに合わせても違和感がありません。実用性のみならず、ファッションにおける汎用性も高いのです。
事実、このジャンパーは、英国の上流階級の人びとにも愛されています。私が所有する1着には、ロイヤルワラント(英国王室御用達)がなんと3つも付いています。
ただし、上述のことから、着用および運用はなかなか難儀です。油を塗ってあるわけですから、ベタベタしますので、なるべく周囲に気を遣わねばなりません。クルマや満員電車に乗る際は、裏返しにした上で畳む場合もあります。生地特有の弱点もあるのです。オイルが抜け切ると生地が痛みやすくなりますし、高温多湿な日本ではカビの発生も懸念されます。
はっきり言って、面倒臭いです。時間も手間もカネもかかります。ついでにいうと、いわゆる「女子ウケ」は最悪の部類に入ります。なんだか野暮ったいし、オッサン臭い。なのですが、それがいいのです!
「ああ、すっかり油が抜けてしまったな」「来年の夏にはリプルーフしなきゃな」などと、ブツブツ言いながら、時には舌打ちをしながら手入れをする時間が、なんと言いますか、とても豊かな時間に思えてならないのです。
長々と書いてしまいましたが、要は「着るだけで色々と想いを馳せることのできるジャンパーなのです」ということが言いたかったのです。
冬場は、ただでさえ思考がダウナーになってしまうものです。余計なことを考える余地をなんとか消し込み、冬という期間をなんとか心豊かに乗り切る。コレに尽きるのではないでしょうか。
なお、警報級の豪雪の際は、筆者はバブアーは着ずにハードシェルジャケットを着ます。日本の雪国においては防寒性は少し足りないと感じています。どうしても防寒性を向上させたい場合は、別売りのライナー(ボア/ダウン)をお求めくださいませ。
なお「周囲の目が気になる」とのことですが、まったくもって心配いらないと思います。
20代前半の上京したての頃、関東では冬の太陽光線の強烈さに(2つの意味で)目を細めていました。「なぜ、冬に太陽が出ているのだ…?」と(口元はなぜかニヤリとする)。それを見た関東の友人が「怖ッ!」と怪訝そうな顔で私を見ることがしばしばあり、なんだか吸血鬼にでもなったような気分がしたものです。しかし、一冬越せば、颯爽と冬のビジネス街を闊歩するシティボーイに変貌していました(!)。そして、冬の新潟に帰省するたびに、ご質問者のK様と同じような状態になっていたものです。Q.E.D
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